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地質調査研究報告 Vol.75 No.5/6(2024)

特集:鹿児島県トカラ列島周辺の海洋地質 -2022年度調査航海結果-

表紙

2022年度トカラ列島周辺海洋地質調査

2022年度トカラ列島周辺海洋地質調査 地質調査総合センター(GSJ)では1970年代から日本周辺海域の20 万分の1 海洋地質図を発行している.本特集号では沖縄トラフ北部海域調査の一環として,トカラ列島周辺海域で実施した反射法地震探査,海底地形調査,磁力調査,表層堆積物調査の結果について報告する.

上:北西から鹿児島県トカラ列島の連なる島々と朝焼けを望む
  左から口之島,臥蛇島,中之島,諏訪之瀬島,平島が見える.

左下:神鷹丸での反射法音波探査で使用するストリーマケーブルの準備

右下:2022 年望星丸調査航海(GB22-2)での試料採取終了時のグループ写真.調査員,望星丸甲板員を含む

(写真・文:井上卓彦)

目次

全ページ PDF : 75_05_full.pdf [40MB](2025.01.15 更新)

タイトル著者PDF
巻頭言
鹿児島県トカラ列島周辺の海洋地質−2022年度調査航海結果− 井上卓彦・板木拓也・天野敦子 75_05_01.pdf [3.8MB]
概報
2022年度海域地質図航海で行ったトカラ列島北方海域における反射法音波探査及びドレッジ概要 石野沙季・石塚 治・針金由美子・有元 純・三澤文慶・井上卓彦 75_05_02.pdf[17MB]
(著者所属欄を修正して更新 2025.01.15)
GS22 航海での高分解能サブボトムプロファイラー探査に基づくトカラ列島周辺海域の海底下浅部構造 三澤文慶・古山精史朗・高下裕章・有元 純・石野沙季・鈴木克明 75_05_03.pdf [9MB]
GB22-1,GB22-2及びKH23-1航海においてトカラ列島周辺海域で採取された堆積岩の石灰質微化石に基づく堆積年代 有元 純・田中裕一郎 75_05_04.pdf[1MB]
論文
トカラ列島西方海域及び屋久島南方海域の底質分布とその制御要因 鈴木克明・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・針金由美子・齋藤直輝・岩谷北斗・松井浩紀・石塚 治・山﨑 誠・有元 純・徳田悠希・千徳明日香・池内絵里・井口 亮・鈴木 淳・清家弘治 75_05_05.pdf[10MB]
(第6図を修正して更新 2025.01.15)
概報
GB22-1 及び2 航海(トカラ列島周辺海域)で採取された底生有孔虫群集の概要 長谷川四郎 75_05_06.pdf[1.6MB]
トカラ列島周辺海域(GB22-1および22-2航海)で採取された海底堆積物の化学組成 久保田 蘭・立花好子・板木拓也・片山 肇・鈴木克明・間中光雄 75_05_07.pdf [1.3MB]
トカラ列島周辺海域におけるCTD 観測および海洋大循環モデルに基づく海洋環境 齋藤直輝・鈴木克明・板木拓也・鈴木 淳 75_05_08.pdf[3MB]

正誤表
上記修正に伴い、表紙説明部分、石野ほか[概報]、鈴木ほか[論文]を更新しました。(2025.01.15)

要旨集

2022年度海域地質図航海で行ったトカラ列島北方海域における反射法音波探査及びドレッジ概要

石野沙季・石塚 治・針金由美子・有元 純・三澤文慶・井上卓彦

20万分の1海底地質図の作成を目的として,トカラ列島北部周辺海域においてマルチチャンネル反射法音波探査及びドレッジ調査を行った.本稿では,GS22,GB22-1及びGB22-2の3航海で取得した反射断面及びドレッジ調査の概要について報告する.特に,本調査で重点的に観測したトカラ列島北方及び種子・屋久海脚周辺海域に認められる層序・地質構造の特徴について予察的に記載する.種子・屋久海脚周辺海域では,海脚を構成する音響基盤(TY1層)の西側斜面にて不整合面で明瞭に区別される3層の堆積層(TY2層,TY3層及びTY4層)が認められる.西落ちの正断層が海脚西側の等深線に調和的な概ね北北東–南南西走向で複数分布する.トカラ列島北方海域では,不整合面及び音響的層相の異なる3層(N1層,N2層及びN3層)を区分した.N1層は黒島南西沖から蟇曾根及び権曾根にかけて連なる地形的高まりの深部に断続的に認められ,その上位NT2層及びNT3層が海底平坦部に広く分布する.トカラ列島北方海域は北北東–南南西走向の断層,向斜,及び背斜が発達し,NT2層中の地層が変形している.地質構造の特徴から,TY2層・TY3層とNT2層は,琉球弧から沖縄トラフ西方にかけて広がるハーフグラーベン形成時に堆積したと推測される.ドレッジ調査では,GB22-1-D07地点でTY3層が,GB22-1-D08地点でTY3層が,GB22-2-D09地点及び-D10地点でNT2層の上部及び下部が露出していると思われる崖で岩石を採取した.今後,断面における反射面の緻密な対比及び岩石の形成年代の解析を元に統合的な地質層序の解釈を進める.解釈結果はトカラ列島周辺海域の海底地質図として発表する予定である.

GS22航海での高分解能サブボトムプロファイラー探査に基づくトカラ列島周辺海域の海底下浅部構造

三澤文慶・古山精史朗・高下裕章・有元 純・石野沙季・鈴木克明

GS22航海では,2022年5月から6月の期間に東京海洋大学の神鷹丸を用いて,トカラ列島周辺海域で高分解能サブボトムプロファイラー探査を行い,本海域の海底下浅部に関する地質情報を取得した.本論では,屋久島周辺海域及び宝島北方海域でのSBP探査により明らかになった海底下浅部の地質構造をまとめる.屋久島の周辺部のうち,屋久島北方沖では陸棚部分の堆積層の内部構造は不明であったが,部分的に成層した層厚が海底面下最大20 m程度の堆積層が認められた.屋久島西方沖の火山フロント域では海底面下最大約40 mまで成層した堆積層の内部構造を把握できた.屋久島南方沖の火山フロント域及び種子–屋久海脚の部分では,部分的に成層した堆積層が認められるが,音波の透過が悪く内部構造の大部分は不鮮明であった.また,近年地震が群発している宝島北方沖の観測では地震活動に関連した海底変動の存在を想定したが,海底に到達した断層及び下部からの貫入構造などは認められなかった.

GB22-1, GB22-2 及びKH23-1航海においてトカラ列島周辺海域で採取された堆積岩の石灰質微化石に基づく堆積年代

有元 純・田中裕一郎

トカラ列島周辺海域で実施されたGB22-1,GB22-2及びKH23-1航海において得られた堆積岩について,年代決定に有効な石灰質微化石(石灰質ナノ化石・浮遊性有孔虫)の検討を行った.示準化石の産出が認められた試料は,全体として下部鮮新統以上の国際標準化石帯(CN10–CN15帯/ PL5–PT1帯)に対比される.石灰質ナノ化石CN10c–CN13a亜帯の試料群は,琉球弧に広く分布する島尻層群中–上部相当の地質体に由来すると考えられる.CN14帯に対比される試料群は,更新世における活発な火山活動を背景とした地質体形成を示唆する.またCN14b–CN15帯に属する地質体の調査海域における分布は,後期第四紀地質構造発達史の解明のために重要な地質情報を提供する.

トカラ列島西方海域及び屋久島南方海域の底質分布とその制御要因

鈴木克明・板木拓也・片山 肇・兼子尚知・針金由美子・齋藤直輝・岩谷北斗・松井浩紀・石塚 治・山﨑 誠・有元 純・徳田悠希・千徳明日香・池内絵里・井口 亮・鈴木 淳・清家弘治

トカラ列島西方海域および屋久島南方海域で実施した海底地質調査航海GB22-1及びGB22-2では,95地点で表層採泥,1地点で柱状採泥を実施した.取得した堆積物試料や海底写真等の底質データに対して,コケムシ類の
分析,生体サンゴ・サンゴ遺骸の分布の検討,浮遊性有孔虫の群集・サイズ分布・保存状態の検討,環境DNA抽出などの各種分析を行った.トカラ列島西方海域においては,おおむね水深800 m以上の平坦な海底に中粒砂質から泥質の堆積物が分布し,点在する地形的高まりの頂部付近に露頭が点在する.地形的高まりの周囲には礫質堆積物や局所的にリップルを呈する砂質堆積物が確認された.こうした底質分布はアジア大陸や九州など周辺の陸地からの豊富な細粒堆積物供給と,海域を北上する黒潮と地形効果により局所的に発生している底層流の影響で説明できる.屋久島南方海域においては,屋久新曾根をはじめとする種子・屋久海脚の稜線部に広大な露岩域が分布し,その東西に礫質から泥質堆積物が分布する.この中で砂質堆積物は生物源砕屑物を多く含んでおり,リップルを呈する地点も複数観察された.こうした底質分布は,海域を東に進み太平洋に抜ける黒潮が海脚を横切る際の流速増大・減少にともなう侵食作用の卓越や堆積物の移動を示していると考えられる.コケムシ類の分析結果,サンゴ類の分布,浮遊性有孔虫の群集・サイズ分布・保存状態の検討から,トカラ列島西方海域および屋久島南方海域においても,生物生産が黒潮の影響を強く受けていることが示唆された.

GB22-1及び2航海(トカラ列島周辺海域)で採取された底生有孔虫群集の概要

長谷川四郎

GB22-1及び2航海によるトカラ列島を東西に挟む海域(種子・屋久海脚–奄美海脚と沖縄トラフ東縁部)の水深257 m–1,438 mの計47地点を選定し,有孔虫群集の産状を表すための基礎統計量として,底生・浮遊性有孔虫数,底生有孔虫の殻質構成比,浮遊性有孔虫率などの有孔虫指標を算出した.それらの水深に伴う変化と,主要種の深度分布にもとづくⅡ帯からⅤ帯の群集区分については,これまでに南西諸島周辺で報告されたものに対応する.膠着質殻種の産出率の異常な低下が海脚東方海域で確認され,浅海起源の異地性遺骸を含む堆積物が広く分布することが示唆される.また,浮遊性有孔虫率の深度分布における異常は,底生・浮遊性の両有孔虫数の特徴から,非生物性砕屑物の増加による底生・浮遊性有孔虫数の相対的減少と,異地性底生有孔虫遺骸の付加による底生有孔虫数の増加が,各地点の周辺の地形に応じた黒潮の強い流れの影響を受けることで生じる.

トカラ列島周辺海域(GB22-1および22-2航海)で採取された海底堆積物の化学組成

久保田 蘭・立花好子・板木拓也・片山 肇・鈴木克明・間中光雄

トカラ列島周辺海域で採取された海底表層堆積物71試料について24元素を定量した結果を示し,化学組成の特徴や分布特性について報告する.本調査海域では生物源炭酸塩が主成分である沖縄本島周辺海域に比べ,堆積物中のAl2O3,T-Fe2O3濃度が高く相対的にCaO濃度が低い結果となった.調査海域を4つに区分すると,南東海域は水深が深いためAl2O3,TiO2,T-Fe2O3などの濃度が高くCaO,Sr濃度が低い一方,北東海域は浅海部が多くCaO,Sr濃度が高い.南西海域がMnO,Ni,Pb濃度が高いのに対し,北西海域は粘土鉱物の増加によりK2O,Na2O,Rb濃度が高いという結果となった.水深および元素濃度間の関係では各海域で異なる傾向が認められるが,本調査海域の海底堆積物は生物遺骸粒子・苦鉄質火山岩類由来の砕屑性粒子・珪長質火山岩類由来の砕屑性粒子の3要素に由来することが推測され,既報のトカラ列島周辺海域の分析結果と調和的であった.

トカラ列島周辺海域におけるCTD 観測および海洋大循環モデルに基づく海洋環境

齋藤直輝・鈴木克明・板木拓也・鈴木 淳

トカラ列島周辺の海底地質について多角的な解釈を行うためには,黒潮をはじめとする海洋環境を理解する必要がある.本稿では,GB21-2,GB21-3,GB22-1,およびGB22-2航海において,屋久島南沖から宝島北沖にかけて実施されたCTD観測を解析した.併せて,海洋大循環モデルによる流況解析を実施した.黒潮は屋久島–中之島間と中之島–諏訪之瀬島間で比較的強い流れを生じさせ,強い流れは海底上まで達する.中之島–諏訪之瀬島間の黒潮流下方向では,表層水が低水温・高塩分となる領域がみられる.これは海底地形の高まりを通過する黒潮が鉛直混合を引き起こすためと考えられる.同じ地点では表層の溶存酸素が高くなる.鉛直混合が表層へ栄養塩を供給し,一次生産を活発化させるためと推測される.口永良部島周辺では,海底付近で100 m程度の厚さを持つ高濁度層が多くの地点で観測された.黒潮に伴う強い流れによる再懸濁や,活発な火山性地震による混濁流の影響の可能性がある.