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世界遺産登録記念 石見銀山の地質と鉱床
石見銀山の地質
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世界遺産に登録された「石見銀山」は、仙山 (せんのやま) とその周辺の地下に分布する銀主体の鉱床を採掘した鉱山で、いまなお多数の坑口が確認できます。石見銀山の鉱床がどのようにしてできたかについては幾つか議論がありますが、定説はありません。地質調査総合センター発行の5万分の1地質図幅「温泉津及び江津」(ゆのつおよびごうつ) (鹿野ほか、2001) によれば、仙山はデイサイト火山角礫岩-凝灰岩 *1 からなる火砕丘 *2 です (地質図 S)。
この仙山火砕丘は、主にデイサイト溶岩ドームが集まってできた大江高山火山 (地質図 O) が成長する過程で、180万年前頃に小規模な火山岩塊火山灰流 *3 を繰り返し噴出することで形成されたと考えられています (Kano et al.、 2007)。この種の火砕丘が報告されたのはこの仙山火砕丘が世界で初めてです。現在は浸食されて、内部にあった火道から火口にかけての構造のみが保存されています。火山の根とでもいうべき火道はめったに観察できませんが、品位の高い銀鉱石が産出する福石鉱床 (仙山の東側) は、その火道を埋めるデイサイト火砕岩に胚胎 *4 しています。しかも、仙山火砕丘とその基盤にかけては砕屑粒子の間に沈殿したマンガン鉱物からなるマンガン鉱床もあります。マンガン鉱床から採れる二酸化マンガンは銀の精錬時に融点を降下させるために利用されていました。
今後、仙山火砕丘とこれらの鉱床との成因関係については、専門家による検討がなされることを期待したいと思います。
文 : 鹿野和彦
用語
* 1 デイサイト火山角礫岩-凝灰岩 | |
デイサイト : | 比較的 SiO2 成分が多い (60%台後半) マグマが固まってできた岩石。雲仙普賢岳もこのタイプ。 |
火山角礫岩 : | 火山の噴火でできた角張った岩石のかけらや火山灰が固まってできた岩石。 |
凝灰岩 : | 火山灰がかたまったもの。 |
* 2 火砕丘 : 火口の回りに噴出物が積もってできた丘。 |
* 3 火山岩塊火山灰流 : | Block and ash flow。雲仙の平成新山噴火で発生した火砕流と同種の火砕流。 |
* 4 胚胎 : 鉱床が存在すること。 |
石見銀山の鉱床
石見銀山 (大森鉱山) の鉱床は、仙山西部の銅及び銀を含む永久鉱床と、東部の銀を主とする福石鉱床に分けられます。
福石鉱床は、仙山火山噴出物 (デイサイト火砕岩:地質図 S) 中に胚胎 *1 する鉱染状の鉱床 *2 である。180万年前にデイサイトの貫入に伴う熱水 *3 によって形成されたと考えられています。仙山の東方では「福石」と呼ばれる細い鉱脈 (鉉 : つる) とその周囲の鉱染部よりなり、銀を含む鉱石鉱物 (輝銀鉱や自然銀) と少量の鉛、鉄、マンガンを含む鉱石鉱物 (方鉛鉱、赤鉄鉱、菱鉄鉱と二酸化マンガン鉱物) を含みます。図の の部分が古くから採掘された部分です。福石鉱床の北西にあるマンガン鉱床 (金満鉱山) は仙山火山の末端部の温泉活動によって生成したと考えられます。
永久鉱床は、大江高山デイサイト溶岩ドーム (地質図 O) とその周辺の久利層流紋岩火砕岩 (地質図 Kp) に胚胎する鉱脈型鉱床で、佐藤鉉・馬瀬鉉・中背鉉など約10本の鉱脈群からなっています。鉱脈は垂直で北東-南西方向ないし東西方向に延びています。主として銀や銅を含む鉱石鉱物 (輝銀鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、菱鉄鉱、菱マンガン鉱、赤鉄鉱) を含みます。
(この解説は5万分の1地質図幅「温泉津及び江津」(鹿野ほか、2001) によっています)
用語
* 1 | 鉱床が存在すること。 |
* 2 | 鉱染状の鉱床 : 岩脈などに集まっているのではなく、母岩中に鉱石鉱物が点在して沈着している鉱床。 |
* 3 | 熱水 : 高温の地下水。ここでは火山活動に伴って鉱床の元となる成分を含む。 |
引用文献
- Kano, K. and Takarada, S. (2007) Cone-building block-and-ash flows: the Senyama volcanic products of O'e Takayama volcano、 SW Japan Bulletine of Volcanology、 vol. 69、 p. 563-575: DOI 10.1007/s00445-006-0091-4
- 鹿野和彦・宝田晋治・牧本 博・土谷信之・豊 遙秋 (2001) 温泉津及び江津地域の地質. 地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅), 地質調査所, 129p. (地質図と研究報告がセット)
参考文献
- 温泉津及び江津地域の地質 (5万分の1地質図幅) (地質調査所 (現 産総研 地質調査総合センター)、 2001年発行)
- 1 : 20万「浜田」 (20万分の1地質図幅) (地質調査所 (現 産総研 地質調査総合センター)、 1988年発行)
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