地質調査総合センター



第二報 青森県の津波堆積物調査について

活断層・火山研究部門
 海溝型地震履歴研究グループ

 産業技術総合研究所では、2014年までに青森県下北郡東通村小田野沢低地(Tanigawa et al, 2014)および三沢市三沢(谷川ほか, 2014)において、津波堆積物調査を実施しました(図1)。ここでは、それぞれの調査結果についてご紹介します。

東通村における津波堆積物調査

 東通村における掘削調査(写真1)の結果、5層のイベント砂層を発見しました。このうち3層(S1、S3、S4)は強い遡上流によって海岸から運ばれたものと解釈しました。
 海から遡上する強い流れとして考えられるのは津波や高潮です。一般的に、津波のほうが高潮より広い範囲を浸水させると言われています。最も新しいイベント層S1(西暦1480–1770年に堆積)は、現在の海岸線から1km程度内陸まで分布しています。当時と現在の海岸線位置がほぼ同じであると考えられることから、イベント層S1は広い浸水範囲を持つ津波の痕跡と結論づけました(写真2)。イベントS1に対比される津波としては、1611年慶長津波、1677年延宝津波、1763年宝暦津波、千島海溝南部で発生した17世紀の巨大地震(1630-1650年頃: Ishikawa, 2013;Nanayama, 2020)、1700年カスケード地震が挙げられます。

 イベント層S3およびS4についても津波堆積物である可能性がありますが、これらが堆積した5000 cal BP頃(紀元前約3050年)の海岸線の位置に関する情報が不足しているため、高潮堆積物と区別することは難しいと判断しました。

三沢市における津波堆積物調査

 三沢市三沢における掘削調査(写真3)の結果、2層のイベント砂層を発見しました。このうち、上位のものの年代は特定できていません。下位のものは4800-2900 cal BP頃(紀元前約 2850 年 ~ 紀元前約 950 年)に堆積したと推定されました。下位のイベント層は、現在の海岸線より約700m内陸の地点から1kmにわたって連続的に分布していますが、微化石の分析から必ずしも海から遡上したものと解釈できないため、これらが津波によって堆積したかどうかは結論づけられていません。

図1 東通村小田野沢と三沢市三沢の調査地点(基図には地理院地図を使用した)

図1 東通村小田野沢と三沢市三沢の調査地点(基図には地理院地図を使用した)

写真1 東通村小田野沢低地における調査風景(2011年11月撮影)

写真1 東通村小田野沢低地における調査風景(2011年11月撮影)

写真2 東通村小田野沢低地で採取された試料のはぎ取り標本

写真2 東通村小田野沢低地で採取された試料のはぎ取り標本

写真3 三沢市三沢における調査風景(2011年11月撮影)

写真3 三沢市三沢における調査風景(2011年11月撮影)

引用文献

  • Ishikawa, S. (2013) The huge tsunami traces of the 17th century earthquake and sedimentary environment in laminated lake deposits at Lake Harutori, eastern Hokkaido Japan. Ph D thesis. Kyushu University, Fukuoka, Japan.
  • Nanayama, F. (2020) Evidence of giant earthquakes and tsunamis of the seventeenthcentury type along the southern Kuril subduction zone, eastern Hokkaido, northern Japan: a review. Geological Society of London, Special Publications 501, 131-157.
  • Tanigawa, K., Sawai, Y., Shishikura, M., Namegaya, Y., Matsumoto, D. (2014) Geological evidence for an unusually large tsunami on the Pacific coast of Aomori, northern Japan. Journal of Quaternary Science 29, 200-208.
  • 谷川 晃一朗・澤井 祐紀・宍倉 正展・藤原 治・行谷 佑一(2014)青森県三沢市で検出されたイベント堆積物.第四紀研究 53, 55-62.

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